2008-10-01から1ヶ月間の記事一覧

靴の砂

中庭のすみっこで話しているうちに暗くなってきた。四時をすこしまわった頃に立ち止まり、ぽつりぽつりとことばを交わし、気づくと五時になり、六時になり、学生たちはキャンパスを離れていった。その脚だけが、きれいにまっすぐ動いているのを目の端でみと…

(日付不明の書き残したもの)

集合住宅の前には産地直送のトラックが駐まり、素早く八百屋ができあがる。入り日が欠けはじめて、鎖のようなかがやきを落とす。それを受けて、集う客の顔に影が波立つ。わたしはそれを横目に歩いた。すぐ隣には遊具がある。さび付いたブランコで、近所の高…

波千鳥

恒例となった「焼きまんじゅう」を、屋台に買いに行く。お会式は今日まで、と聞いていたのだけれども、よく確かめてみると朝法要を終えるまでで、つまりいまはもう「その後」なのである。来る途中も、昨夜の屋台がひしめくような、あるいは鱗のように連なる…

嗅覚と忘却

キンモクセイの花のにおいにはなつかしさとすこしばかりの暗い感情がまじっている。過去の、過去にしてはすっかり違うものになってしまったような場所からただよいのびてくる。花の匂いは薬品にも似ている。それは実験室の薬品といった清潔な感覚よりも、記…

水の読書

先日誕生日を迎えた、もう十年来の友人と話をした。電話を通してであるが、会話の呼吸の緊張とやわさが、なんだか前と変わっているようにも、もうずっと前からこんな具合になっていたようにも、記憶を透かして二つの感情をくゆくゆとのぼらせた。それでも会…