靴の砂

中庭のすみっこで話しているうちに暗くなってきた。四時をすこしまわった頃に立ち止まり、ぽつりぽつりとことばを交わし、気づくと五時になり、六時になり、学生たちはキャンパスを離れていった。その脚だけが、きれいにまっすぐ動いているのを目の端でみとめた。自販機に飲み物を補給するべく業者がトラックを走らせる頃、夜間の学生は校舎へと向かい、からからと笑う男の声だけがどこかで転がっては止まり、また蹴飛ばされた。かすかなかわいたつながりのことばを、ずいぶん長いことかわした。以前も、ほとんど同じ場所に立って、やっぱりこんなふうに長々話していたことがあった。この人ではない人と。その人は卒業して就職し、わたしはふとしたことで連絡するのが怖ろしくなった。そのうちに彼女の息づかいも忘れた。
もう一人が加わって、三人で話した。すこしずつだが確実にキャンパスに残る人は減っていき、太い幹の銀杏を囲むベンチに座る一人の女性がなぞめいて映った。夜間の学生たちもまた消えて、警備員が懐中電灯を手にしてつまらなそうに階段を照らし歩いた。廊下の窓の鍵がかかり、次々に部屋の灯りがはがれおちていく。こんなふうに動いているんだ、と思った。
帰宅すると、注文していた本が届いていた。岐阜県から送られたものだった。紙袋を加工してつくった封筒を丁寧にはがし、そこに刻印されているclose to meという文字がフラットでありながらもさみしく静かに映った。注文票にそえられた「ありがとうございました」の文字に、ふとこの送り主の生活を思い描こうとしていた。