革命を叫ぶ女

年賀状を二枚買った、この二枚だけ書けばなんだかもうそれで事足りそうだ。硬貨一枚ですませられればそれにこしたことはない。道々文面を考えていると、牛馬のごとく働くことが出来ないので、キューバのごとく革命をしたいと思います、というフレーズがひらひらあたまのなかを舞ってうるさいので、つかまえてちぎった。二枚はお世話になった人に出すので、さすがにこれではまずい。

以前は友人にも書いていたのだが、この頃は書こうと思えるほど親しいひともない。ひとりくらい出そうと思ったが、その友人はこの頃半ば住所不定の身である。先日、忘年会と称して旧い友人たちと集まった。そのとき彼もいた。帰り、いつもとは違う方角の電車に乗ろうとする。この頃は池袋に住んでいるのだ、と言う。わたしは地下鉄で去っていく彼をすこしばかり思い続けて、十一時も終わりかける有楽町のプラットホームで山手線の電車を待った。そのまま何かを待ち続けるように電車に乗っていた。時折車窓をすべっていく看板に書かれた大きな文字が、妙にやさしく目に刺さった。五反田駅に着いたとき、十二時をちょうど回った頃だった。階段を下り改札を抜ける折り、年の頃三十一二の女性がレボリューションと言っているのを見た。薄い紫色のコートを羽織った彼女の丁寧な化粧が、右手を突き上げながら言う「レボリューション」と違和感を伴い映って、すぐにそれはたのしいとろけあう色彩を見せた。女はなんどもレボリューションを言っていた。周りの女はほほえむばかりで、言われている中年の男も無言である。キューバのごとく、などということばが舞っていたのは、この記憶がまだどこかにひっかかっていたからなのだろう。とりあえず、チェ・ゲバラの似顔絵を描いた。牛の絵も描いてみた。女の顔を描こうと思って思い出したら、案外整った顔立ちで、ふとくやしくなった。